2011年10月28日金曜日

唐木のお箸が教えてくれたもの

もう、何十年前の映画になりますが、宮崎駿氏の「紅の豚」という映画がありました。
僕は今でもあの映画の中で忘れられないシーンがあります。
フィオというヒロインが、豚の姿のポルコの飛行艇に乗り、隠れ家の島に戻る途中によった港町でのこと。物売りの少年に言われるままに金を払おうとするポルコに、フィオが「高すぎるわよ。ぼられてる」と文句を言います。
すると、ポルコが「ぼってるんじゃない。持ちつ持たれつなんだ」というシーン。

同じものなら、少しでも安くというのを常識のように育った自分としては、その殻をスコーンと割ってもらったような気がした映画でした。

節約の意識も大切だけど、お金を使うノウハウも大切なんですよね。得とか損とかって、その時出て行くお金の大小では計り切れない。
誰かが損をすることで、誰かが得をする、しかし、損をし続ける人もいなければ、得をし続ける人もいない。そのタイミングがずれて、持ちまわることで、経済はふくらんでいく。

この塩梅が難しいわけですが、テレビでは得するノウハウはやっていても、損するノウハウはやっていません。
しかし、得をすることばかり追い求めていると、思いがけない高い代償を払うことになるのもご存知のとおり。

別に経済の専門家でもない私が実践していることは、自分の身の回りの品からなるべく安すぎる物はなくしていこうということ。
そう決めてからは、本当に自分が欲しいと思う物を素直に口に出せるようになりました。

たとえばお箸。


これは伝統工芸の唐木の箸です。デパートだと、一膳3000円から9000円もしますし、水気を拭いてしまわなければならないなど、手間もかかります。
でも、手にしっくりくるんです。それだけじゃなく、細かい動きがしやすいので、食事をきれいにいただけるようになったと思います。
同じお箸を小学生の娘に買ってあげたところ、職人さんから、ご飯を食べたら、すぐにちゃんと洗って、拭いてしまっておけば、お嫁に行くまで持つよと言われました。
あれから数年。いまだに娘はお箸を洗って、拭いています。それまで手伝いなど、何もしたことがなかった娘が・・・・。
これも良い物を買うと、ついてくる効果の一つですかね。












2011年10月25日火曜日

葛飾区産業フェア、無事終了!

昨日、無事に3日間の葛飾区産業フェア農業・伝統産業展が終了。
今年もすごい大人気でした。




農業と伝統産業が一緒にやるのがミソで、いっぱいの野菜をゲットした人が伝統産業のブースにもちらほら。
全国の名産品もブースをかまえるので、区外からもたくさんの人がくるのが、葛飾の産業フェアの特長です。


年々、ブースをかまえる職人さんの数が減っていくのが、残念ですが、お客さんの数は年々、増える感じがします。
やっぱり、日本人は、心のどっかで、誰も伝統工芸が好きなんだと思います。
最後はみんなで記念撮影! 楽しかったです。


2011年10月19日水曜日

江戸べっ甲、その魅力

江戸べっ甲、鼈甲という字の通り、亀の甲羅を加工して作る伝統工芸品です。
平安の時代、正倉院などにも鼈甲製の装飾品が多数残っています。
タイマイという亀の甲羅が材料ですが、日本の本州近海にはタイマイはもともと生息していません。
ですので、当時の鼈甲製品というのは、琉球などの南の国から時折、輸入される、貴族のための高級品でした。
それが長崎で貿易が盛んになる江戸中期になると、庶民の憧れの高級品として、さまざまな鼈甲製品が作れるようになったのだそうです。


これは江戸べっ甲職人の山川さんの作品。斑(ふ)と呼ばれる模様の美しさが鼈甲の持ち味。
そのうっとりするような美しさ以外に、本物の鼈甲が持つ良さは、肌につけた時に冷たくないこと。
アクセサリーとして加工される素材である以上、これって大切なことだと思います。

そんな山川さんの作品は、こちらのサイトでたっぷりごらんいただけます。

葛飾区職人会公式サイト




2011年10月14日金曜日

伝統工芸は消える!?

時々、「伝統工芸って消えちゃうんでしょ?」なんていわれることがあります。
がーん。

確かに伝統工芸の職人さんは減る一方なんです。
でも、職人になりたい人が少ないかというと、決してそうではない。むしろ、葛飾区などには、毎年、全国から多数の弟子入り志願の問い合わせがきます。

そこには二つほど問題があるんです。
一つは、伝統工芸の職人さんって、一人前になれる人ってそんなに多くないということです。
その一番の理由が、自己管理能力。
たとえば、品物を作ったものの、自分が納得できないと売らない。サラリーマンの僕にしてみれば、ちょっと価格安くして売っちゃえばいいのにとか、せめて原材料費を回収してなどと、思うのですが、職人仲間から認められている人で、それをする人はいません。
しかも、そのこだわりは、素人目には、まったくわからないことがほとんど。それでも長い間使ううちに差が出てくるからと、一切妥協しないのです。
結局、そういう職人さんだけが、まわりの信頼や顧客の信頼を得て、一人前になれるんですよね。
http://www.syokuninkai.com/
このサイトで紹介している職人さんは、みーんなそんな感じです。でも、そこまで厳しく自己管理をできるのも一つの才能というより、むしろ性格なわけでして(頑固ちゅーことです(^^;)技術さえあれば、誰でもなれるという世界ではないんですよね。

次にもう一つの理由。それが、時流。
たとえば、木彫刻の職人さんたちは、欄間や柱などの建築の彫刻が主な仕事でしたけど、現在、その日本建築が激減しています。床の間なんて都心では、もうほとんど見かけません。
そうした日本人らしさとか、文化というのは確かになくなってはいないけど、確実に減っていて、伝統工芸というのは、そういった部分にぴったりと重なってしまうわけです。

将来が見えない状況で、弟子はとれないというのが親方の言い分。
「親方は仕事を教えるんじゃない。食うための道を教えるんだ」とくるわけです。

この間、立石の伝統産業館でサイトの打ち合わせをしていた時、一人の紳士が入ってきて、我々にたずねました。

「あのぉ、江戸友禅の広幅の風呂敷がどうしても欲しいんです」

「江戸友禅の風呂敷ですか?」

「ええ、5年ほど前に見て、欲しくてたまらなかったんですが、ようやく暇ができて、訪ねてこれました」

「ごめんなさい。その職人さんは数年前に体をこわされて、引退されました。もう江戸友禅の風呂敷はありません」

「ああ、そうでしたか。じゃ、どこに行けば買えますか?」

「もう、どこにもないと思います」

紳士は納得できないようで、しばらくあれこれ質問をされていましたが、友禅はあっても、広幅の風呂敷を作っている最後の職人さんが廃業されたのだと理解するにいたり、本当に残念そうでした。
その方の欲しかったのは、これです。




もう、画像しか残っていません。素朴で品のある伝統的な柄です。
かつては、こんな感じで作っていらっしゃいました。



で、その時思ったのが、こういったやり取りを今後何度もすることになるんだろうなあということ。

いや、やっぱりそれはいやなので、できるだけ、そうならないために新しい何かを作り出さないとと
心を新たにしたのでした。






ちょっと一息

江戸の暮らしが息づく技と美というながーいタイトルの葛飾区の伝統工芸のサイトをプレオープンして、半年。
http://www.syokuninkai.com/

まだ、全員の職人さんを掲載できていない。うむ、頑張らねばです。でも、ようやく送料やら、発送手順などの準備が固まった。これからこれから。

海外に伝統工芸をeBayで販売するところから始まって、早一年。海外からの問い合わせはひきもきらないんですよね。しかし、悲しいことにはこの円高。一ドルが100円くらいの頃に比べると、倍近い値段に感じます。
それでも海外の人は買ってくれるんだから、どれだけ日本の伝統工芸品というのは魅力があるんでしょう。
今日も、クリスマスまでに娘に巾着をプレゼントしたいんだという問い合わせメール。根付がついた巾着は男物なんだけどなあ・・・いいのかな。

やはり、人気があるのは、江戸切子や印伝。

江戸切子、アンバーなのがかっこいい

いろんな伝統柄が楽しめる贅沢なパスケース



ちなみに、下のパスケースは昨年の葛飾産業フェアで、カミサンに買いました。
今年は上のショットグラスを僕のために買う予定です。
デパートじゃ、倍以上するんです。
葛飾産業フェアの伝統工芸展は、来週21日から23日まで。
また、混むんだろうなあ。早い時間に行こう。





2011年10月5日水曜日

伝統工芸の町、東京葛飾

東京の「葛飾」と聞くと、パッと思い浮かぶのは何でしょう? 
帝釈天? 寅さん? またはアニメのリョウさんとか?

意外と知られていない葛飾のもう一つの顔として、「職人の町」というのがあります。
その職種の豊富さは、都内随一ともいわれるほど。

葛飾の町を歩けば、さまざまな町工場や伝統工芸品の工房がいたるところにあるのがわかります。
江戸や明治の頃から、受け継がれた伝統技法と、戦後の日本を育てた町工場の工業が一堂に会する町が葛飾なのです。これは日本のものづくりの歴史を歩くだけで学べるといっていいかもしれません。

なので、当然のごとく、人間国宝や現代の匠として認定を受けた方が、普通のおじさんとして、そこらへんを歩いていたりします。

国宝として認定したいと言われても、「自由に競馬や競艇に行けなくなるなんて、やなこったい」と、あっさり断る人も少なくないのが、葛飾の職人さんです(^^;。


もう一つ、葛飾の伝統工芸の職人さんの興味深いところは、違う業種の職人どうしが連携しているところです。同じ業種で組合というのは、全国でもよくある形ですが、ここ葛飾の場合は、それに加えて異業種が交流する組合があるのです。
その連携を生かして、京成立石の駅からすぐそばに葛飾伝統産業館という共同のお店を展開しています。

葛飾の職人さんの作品は、高級デパートや専門店に納められ、販売されていますが、ほんのちょっと都心から足を伸ばして、葛飾まで来ると、びっくりするぐらいお得な価格で同じ品が手に入っちゃいます。ぜひ、一度、いらしてください。

でも、はるか遠方の方は東京に来ることもままならない。
なので、葛飾の職人会がWeb上にお店を開いちゃいました。まだ、完全オープンではないですけれど、僕がそこの管理人をしています。
ぜひ、覗いてみてください。他所では手に入らない本物が格安で手に入ると思います。特に今はプレオープン中なので、スタッフが暇なので、チャンスですよ。

2011年10月1日土曜日

オンラインショップは、現代の棒手振り商売とおもふ

棒手振り(ぼてふり)商売とはなんぞやというのは、wikipedia等が詳しいですので、そちらにおまかせするとして、ま、かんたんにいうと天秤をかついで、いろんな品物を売り歩く商売のことです。

広まったのは江戸時代とのこと。
出来合いのものやその日の食材を桶に入れて、売るという特別な技術を要することもないため、幕府は、社会的弱者の自立対策として、かんたんに許可証を取得できるようにしたのだそうです。
これによって社会的弱者も飢えることなく、江戸という町が、一気に華やいだと一説には言われています。

私が思うのは、さぞ江戸の庶民は、いろんな棒手振り人がやってきて、楽しかっただろうなあということです。

豆腐、金魚、油揚げ、納豆、野菜、魚、風鈴、おもちゃ、煙草、甘味。
きっと家の中にいても、次々といろんな掛け声が聞こえてきて、わくわくしたんではなかろうかと思います。

そんなことをぼやーっと考えていてふと思ったのが、家の中にいて、次々とめぐることができるオンラインショップの楽しさというのは、この棒手振り商売と似ているのではないかってこと。
とはいえ、売り手の個性がスパークして、次々に客を魅了していく実際の棒手振りに比べると、まだまだ今のオンラインショップは、つまらないかもしれませんね。

人が売るということを、もう少し考えなきゃ。